曲の中のキャラクターがちょっとずつ大人になっていく
――それでは、6曲目の「目をみて話せたら」はいつぐらいに作った曲ですか?
稲荷これは20歳ぐらいのときで、リコチェットが出来てから結構すぐに作った曲ですね。今回のアルバムを全体的なバランスで見たときに、遊び心のあるアレンジの楽しい曲を入れたくて。ほかの曲が今までと少し目線を変えたものだったのでこの曲を選びました。
――目線を変えたというのは?
稲荷今までは自己完結で終わるような曲が多かったんですけど、個人的に「それじゃだめだ」って思うようになって。1枚目(『トランスファー』)は物語っぽい感じで、2枚目(『きっと鳴り止まない』)が自己完結で終わる感じ、3枚目(『ランドリー』)で「自分だけじゃなく誰かがいる」みたいな目線に切り替えています。曲の中のキャラクターがちょっとずつ大人になっていく……イコールじゃないですけど、僕も一緒に大人になっていけたらなって思ってます。
――それは当初から想定していたコンセプトなんですか?
稲荷1枚目は“物語”を作ろうとして、それができたあとに2枚目はもっと“リアル”なのを作ろうとしました。そして2枚目が出来たあとに、自分で聴いてて「これじゃいけないな」と思って3枚目では「もっと目線を広げよう」と思いました。自分じゃない誰かが出てきて、その自分みたいな人を救ってもらったり、自分がその誰かを救えるように……みたいな。あとは、3枚目の曲の中に1枚目の曲の歌詞を入れたりとか、歌詞を交換したりしてます。まぁ、僕がひとりで遊んでるだけなんですけど(笑)。
――『ランドリー』の曲同士でも歌詞の交換をしてますよね。例えば4曲目の「夜更けてく前のライダー」の“ライダー”は3曲目の「スペア」の歌詞中に出てきたりします。
稲荷そもそも「雨が降っている」(前作『きっと鳴り止まない』に収録)で「何かのライダー 助け来ないなあ」って歌詞があったんです。僕、“ライダーもの”とか“戦隊もの”ってあんまり詳しくないんですけど、ライダーって情けないなと思っていて……。
――ヒーローって頼もしいイメージが強いと思うんですが、小さい頃に憧れたりしませんでしたか?(笑)
稲荷いや、僕はどっちかっていうと「おジャ魔女どれみ」派だったんで(笑)。あぁいうヒーローって「なんか滑稽だなぁ」くらいに思ってました。
――(笑)。「おジャ魔女どれみ」派はかわいいですね。
稲荷僕のなかでのヒーローは、「おじゃる丸」のなかに出てくる“月光仮面”とか、「Dr.スランプ アラレちゃん」に出てくる“スッパマン”とかのイメージが強いんです。情けないというか、しょうもない部分含めて「かっこいいし愛らしい」みたいな。
――確かに、そのキャラクターだとそうですね(笑)。
稲荷「かっこ悪い人が必死にかっこつけてる様」っていうのはかっこいいと思うんですよね。「スペア」は「雨が降っている」の続編というか“蛇足”みたいな感じで、「雨が降っている」を作ったあとすぐに作ったんです。“スペア”って“補助”って意味合いのほかに“蛇足”みたいな意味もあるんです。あとから「ここまで説明する必要はなかったな」って思って、「スペア」って曲名にしました。
言いたいことがはっきり言えないような人たちに聴いてもらいたい
――アルバムの曲順はいつもそういうストーリーを考えているんですか?
稲荷そうですね、後付けのときもありますけど(笑)。そういう遊びは毎回やってます。
――ところで、稲荷さんはかわいいものやかわいい女の子が好きですよね? 「目をみて話せたら」の歌詞中にも「たまたま電車で隣に座った黒髪の色白は可愛く見える」とか出てきますし。
稲荷なんですかね、「僕なんかじゃ手が届かないよなぁ」ってもう最初っから思っちゃうタイプなんで、変な憧れというか、何かしらこじらせたものはあるかもしれません。
――「目をみて話せたら」や「さよならも言えなかった」とか、勝手な印象ですが曲中のキャラクターは草食系なイメージだなと思ってました。
稲荷草食系ですか! なるほど!(笑)
――そういった人たちに向けて歌っている部分もあるんですか?
稲荷意識したことはなかったですけど、そういう目線の歌は多いかもしれませんね。草食かどうかはわかりませんけど、他人任せな部分があったり言いたいことがはっきり言えなかったりする、言葉足らずな人たちに聴いてもらいたいなっていうのはひとつのテーマとしてあります。
――草食系男子の心理を歌っている部分は、男性にも共感を得てると思います。
稲荷同性の人から褒められるのは嬉しいですね。そういう人は絶対に直接感想を言ってくれます。「あれ、いいよ(低い声)」みたいな。寄り添ってくれる感じがあって、これが共感なのかなぁって(笑)。