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久しぶりに、タチの悪いバンドに出会ってしまった。

6月30日(金)、初となる全国流通盤 『THINK』の先行発売企画を行った、sui sui duckのことだ。2015年に結成され、2016年の4月に初ライブ。12月に自主制作盤が完成し、2017年7月5日に『THINK』を発売。まだ20代前半の若者とは思えない深みのある楽曲を生み出し、バンド名のとおりスイスイと階段を登っているように見える彼ら。しかし決して現状に満足することはなく、異常なスピードで変化と成長を続けている。そんなバンドの現状が濃縮されたような45分のライブだった。

この日は、海外インディー直行便の音を鳴らすfrendsip、圧倒的な歌唱力を持つKaco、そしてsui sui duckのレーベルメイトであるevening cinemaが出演。このメンツでオーディエンスが盛り上がらないわけはなく、フロアの温度はどんどん上がっていったわけだが、誰よりも盛り上がっていたのはほかでもない、sui sui duckのメンバーたちだった。開場前には「evening cinemaのライブ中、俺、ウォール・オブ・デス起こしますよ」などと冗談を言っていた渋谷勇太(Vo)。さすがにウォール・オブ・デスは起こさないまでも、自分の出番ギリギリまで体を揺らし、手を振り上げ、出演してくれた彼らへの感謝と喜びを全身で表現していた。

会場である東京・下北沢THREEのキャパシティが満員に近づいてきた21時過ぎ。VJの投影とともに『THINK』1曲目収録のSE「inter light」が鳴り響き、メンバーが登場。「こんばんは、sui sui duckです。よろしくお願いします」という一言から、そのまま「nitro」へとなだれ込み、平然と爆音の波を浴びせかけてきた。渋谷の不敵ながらもセンチメンタルを感じさせるボーカルに、凶暴さを隠しもしないギターソロをかき鳴らす堀内拓海(Gt)。紅一点の加藤亜実(Key)が感情的な彩りを加え、身長190cmを超える清水新士(Ba)はその体をゆらゆらと揺らしながら、安達智博(Dr)とともにバンドのグルーヴを支える。CD音源のイメージと違うのは、メンバーの佇まいではなく、そこから出てくる音のデカさだった。

ところで、彼らがYouTubeにアップしているMVはアートディレクション / VJの高橋一生(かずき)が担当している。sui sui duckが音楽面だけでなくビジュアル面でも圧倒的なクオリティの高さを誇り、バンドの世界観を余すことなく表現できるのは、彼が正式なメンバーだからだ。そして演奏担当のメンバーたちと同じか、それ以上の熱量をバンドに捧げているからだ。この日のVJで使用する映像素材も、今までのものの流用ではなく、彼が新しく集め直したものだった。

高橋が手掛けたMVはどれも美しく、挑戦的。そんなMVを観て「sui sui duckってバンドは、とってもクールな人たちで、ライブでもクールな音を鳴らして、クールに踊らせてくれるんだろうな」と考えながら来場したオーディエンスも多かったと思う。しかし、その期待は簡単に裏切られ、「nitro」が始まった瞬間に爆音が空間を埋め尽くしたわけだ。決して演奏がラフなわけではなく、ただただ音がデカい。これが彼らを「タチの悪いバンド」と表現した理由である。MVや音源で猫をかぶっているとか、ウソをついているとか、そういうことではない。彼ら自身は、ただ自然体で音楽を楽しんでいるだけ。

窓から入るそよ風のように心地良い音源も、我々の鼓膜を大嵐に巻き込むような轟音のライブも、どちらも紛れもなくsui sui duckなのだ。おそらく我々はこれから何度も裏切られ、何度も期待を大幅に上回られることになるのだ。こんなもん、どこまでも追わずにはいられないじゃないか。本当にタチが悪い、ちくしょう、と心の中でつぶやきながら、僕は彼らのステージを目に焼き付けていた。

この日は『THINK』収録曲を収録順のとおりに演奏することが明かされ、ライブは続いていく。しかし単なる「CDの再現ライブ」では決してなかった。CDとライブでアレンジが大幅に変わっているわけでもないし、今までのライブと比べて特別な演出があるわけでもない。(前述したようにVJの映像素材は一新されたし、CDに比べてとにかく爆音なのだが)今のsui sui duckにとってCD音源はそういう風に作るのが自然で、ライブでは可能な限り音量を上げるのが自然。ただそれだけのことなのだ。僕は、戸惑うオーディエンスたちが、ライブが進むにつれて少しずつ「自分たちの中で思っていたsui sui duck」と「今この場に存在するsui sui duck」のギャップを埋めているように思えた。

5曲目の「A」に”コルクを抜いた同業者 毒のような色のぶどう酒が あいつからだって気づいたんだ”という歌詞がある。語尾の母音を揃えて自然な響きを作りながらも、内容はシニカルで意味深。ハタチそこそこの若者が、平気な顔でこれを歌うのかと。この日のライブの45分のなかだけでも、イメージと実際のギャップを埋めたら、新たなギャップが見つかる。そしてどこまでも深く、遠くに、泳がされる。それは決して不快ではなく、むしろ心地良い。

『THINK』最後の収録曲となる7曲目「loser」の前に、渋谷が「今日は参加型でやってほしくて、アンコールの手拍子だけどうしてもしてほしいんですよ」とあまりにも素直な発言をすると、フロアからは大きな笑いが起きた。ほんの数秒前まで圧倒的なライブをしていたのと同一人物とは思えない、普通のあんちゃんがファミレスで喋ってるような平熱のMCも、sui sui duckの持つギャップのひとつだ。当然その数秒後にはまた圧倒的な爆音が待っているわけだが、ライブはすでに終盤で、そのギャップはもう埋まっていた。フロアの全員が得たはずの、自分の認識を一気に塗り替えられる感覚。デビュー前の若手バンドにここまでやられて、黙っていられるだろうか。「こんなすげえバンドがいてさ……」と、誰かに言わずにはいられない。僕も含めてだ。

アンコールの手拍子を受け「ああ~っ!」と恍惚の声を上げる渋谷。浮かべる笑顔は歳相応で、なんだか安心する。そして観客の声に応え「次の作品に向けての曲です」と紹介したのが「feel」。『THINK』からさらに一歩、ロックの領域に踏み込もうという肌触りがする曲だった。さらにバンドが最初に完成させた曲「split milk」で盛り上がりは最高潮を迎え、この日のライブは終わった。

sui sui duckのライブを100~200人規模のライブハウスで観ることができるのは、たぶん今だけだ。早く観ておいたほうがいい。この日のライブ撮影とSNSやYouTubeへの投稿は自由だということだったし、今後彼らの存在はあっという間に音楽ファンに拡散されていくはずだ。こいつらはすぐ世間にバレる。いくら世間がマヌケでも、こいつらに気づかないはずがない。まあ、バレたとしてもそこからまた新しいギャップや裏切りを提供し続けてくれるはずだから、あまり心配はいらないのだが。

なお、この日はボーカルの渋谷とアートディレクション / VJの高橋へのインタビューも行った。そちらも近日アップ予定なので楽しみにしていてほしい。

photo by Nanami

[セットリスト]
01. inter light
02. nitro
03. out
04. salvage
05. A
06. think
07. loser
EN. feel
EN. split milk

sui sui duck / 「salvage」

sui sui duck / 「think」 (recording document)

関連リンク

sui sui duck公式サイト
sui sui duck公式Twitter

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いぬゆな
  • いぬゆな
千葉生まれ千葉育ち。元バンドマン。演奏するより文章書くほうが得意なことに気づき、ライターになる。漫画と音楽とサッカーのことならどんと来い。それ以外もどんと来い。一番好きなバンドはThe music。